アイクポッドは1994年、実業家のオリバー・アイク（Oliver Ike）とインダストリアルデザイナーのマーク・ニューソン（Marc Newson）の運命的な出会いによって生み出されます。
ブランドの名は後にアップルウォッチのデザイナーとなるマーク・ニューソンの代表的な作品名「ポッド」とオリバー・アイクの苗字から命名されました。90年代半ばに発表された、UFOを思わせるマーク・ニューソンによるデザインは、一見おもちゃのようにも見え、当時の腕時計の常識を覆す大胆なものでした。
しかし、緻密に計算された円盤型のデザインがもたらす抜群の着け心地や、スイス製自動巻ムーヴメントを搭載した本格的な仕様により、瞬く間に世界中の時計愛好家のみならずアーティストやデザイナー、シリコンバレーのスターの手首を飾り、感性の高いデザイン時計ブランドとして独自のポジションを築いていきます。
アイクポッドデビュー作は、「ウミウシ」と名付けられたダイバーズウォッチ。
ほかのどの時計にも似ていない、おわん型のケースとすり鉢状のベゼルで大きな注目を浴びることになります。
特徴的なデザインながらクロノメーター規格のスイス製自動巻きムーブメントを搭載、時計としても本格的なスペックを持っていました。
今日でもアイクポッドの最高傑作と評されるヘミポッドがデビュー。
70年代を思わせるレトロフューチャーデザインと、革新的な「ラグレス」ケースコンセプトを備えた時計。
アイクポッドは、斬新なエンジニアリングとデザインコンセプトに基づいた「時間を知らせるオブジェ」を世に送り出しました。
時計界における真の革新者であるアイクポッドは、その後10年以上にわたって続くことになるトレンド【ラージサイズの時計】【限界ギリギリのハイエンド価格】【職人による限定生産】を打ち出します。
すでにパネライやウブロなどのブランドが急成長し、大型時計がトレンドになりつつあった頃。
チタン製の46㎜のケースにクロノグラフと計算尺を備えたパイロットウォッチがデビューします。大型ケースながら計算し尽されたフォルムで装着感は抜群でした。
ニューソンらしい角を丸めた長方形のケースに、時計と一体型のラバーストラップを組み合わせたマナティーは、ワールドタイマー機能を備えていました。
順調にみえたアイクポッドブランドは2006年に倒産してしまいます。
アートコレクターのアダム・リンデマン（Adam Lindemann）とのパートナーシップでゴールド、プラチナ、セラミック、チタン製のケースを備えた、より高級なブランドとしてリスタートします。
2006年に一度倒産したアイクポッドが2008年に再スタートした時の最初のモデル。
ヘミポッドのケースに、秒針もインデックスもない特徴的なダイヤルを合わせた、まさに「時間もわかるオブジェ」。いまなお世界中のコレクターに愛されています。
デュアルタイム機能をニューソン流に表現したモデル。
マナティー同様に角を丸めた長方形のケースにやはりラグのないデザイン、表裏で異なる時間を表示できるよう、2つのクオーツムーブメントを表と裏に配置してリバーシブルデザインとしています。
現在でも時計コレクターやアートコレクターに高い人気を誇る、現代アート作家とのコラボレーションはこの年からスタートします。まだコラボレーションという概念がなかった当時の時計業界にまたも衝撃を与えます。
リスタートするも4年後の2012年に再び解散。
ニューソンとアイクポッドの関係もここで終わりを迎えます。
しかしアイクポッドが時計界にもたらしたインパクトにより、それまでの伝統的な高級時計づくりにとらわれない、デザイン性と高品質を兼ね備えた時計ブランドがいくつも誕生することになります。
